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98/02/15
第四回
入魂企画
はじめてのJAZZ
世界一わかりやすいジャズ入門
楽器特集第一弾
バリトン・サックス魅惑のせかい



■ バリトン紳士録・おすすめCDご紹介 ■



'Paraiso'
Gerry Mulligan with Jane Duboc
(CD-83361 TEARC)
1993


■ ジェリー・マリガン (1927.4.6-1996.1.20)

 もしもマリガンがいなかったら...ジャズ界におけるバリトン・サックスの位置づけは変わっていたかもしれないなぁ。そこまで思わせてしまう程の、偉大な存在のマリガンがトップ・バッターです。

 マリガンは1927年ニューヨークに生まれ、10代で作曲活動を開始、18歳で参加したエリオット・ローレンス楽団を皮切りにジーン・クルーパ楽団、クロード・ソーンヒル楽団などでバリトン・サックスと作編曲で活躍します。ソーンヒル楽団で知り合ったギル・エバンス(p,arr)との縁からマイルス・デイヴィス九重奏団の歴史的名盤『クールの誕生』('49)に参加。単なるプレイヤーにはとどまらず、ここでも作編曲の才能を見せて、一躍その名を轟かせました。
 '50年代に入ると自己のグループを結成、ピアノ・レス・カルテットというユニークな編成で数々の名曲、名アレンジを残しています。クール・ジャズ、ウエスト・コースト・ジャズのリーダー格として君臨していたのもこの時期です。
 '60年代には念願のビッグ・バンドも結成。'70年以降はデイヴ・グルーシンらとGRPレコードにおいてフュージョン的な路線にも手を出しますが、'92年、突如として『クールの誕生』の再演盤、『クールの再誕生』を発表、ファンを驚かせました。残念ながら'96年に他界。たった一人でバリトン界をリードして来たマリガン、あとは誰が継ぐんだい!

 このコーナーの第一回をお読みいただいた方ならばもうおわかりになると思いますが、マリガンの音楽歴は、そのままジャズの歴史なんです。しかも時代に流されてスタイルを豹変させていたわけではなく、いつもその中心で、しかも作編曲家として重要なポジションを占めていた「当事者」だったというのが凄いところではないでしょうか。しかもそんなメイン・ストリーマーの担当楽器が極めてマイナーなバリトン・サックスだったというのが、クッ〜、シブい!カッコイイぜ!

 ジャズ本を見ると「バリトン・サックスの一般化に重要な役割を果たした」とあちこちに書いてありますね。まぁ、これは正しいような、ちょっと違うような...。マリガンはバリトンを一般化させようと思って闇雲に吹きまくっていたわけではありません。作曲家、編曲家としてのマリガンに世界中の誰もが注目し、同時に結果として彼の楽器であるバリトンも有名になったと考えるべきでしょう。冷静かつ的確な表現を考えるならば「優れた作曲家、編曲家、そしてイノヴェーターであるマリガンのおかげで、彼の楽器バリトン・サックスもポピュラーなものになった」といったところでしょうか。マリガンとバリトンのこの関係については、みんなウマイ著述をしてくれないんだよなぁ。編曲を褒めれば演奏をけなす、演奏を褒めれば革新者としての著述が弱い、どっちもスゴイんだってばさ、ぶつぶつ...。

 そんなマリガンの一番のお薦めは、晩年に録音された企画盤『Paradiso』('93)です。「ナニ〜!サダナリっちゅうのはジャズのことを何も知らんな。マリガンと言えば初期アレンジャーものかカルテットの渋い盤でキマリぢゃ!プンスカ!」はいはい、おじいさん、あんまり怒ると血管ブチ切れまっせ。あの世でマイルスにでも会いたいんでっか?
 何といっても皆さんにはまず「バリトン・サックス」という楽器の存在を認識して欲しいと思います。その音色を出来るだけ綺麗な録音で聴いて、魅力を感じて欲しいし、アレンジ上のちょっとユニークな使われ方なども味わって欲しい。そんな「バリトン入門用」に最高なのがこの『Paraiso』である、と考えます。

 「僕はずっとブラジル音楽に魅了されていたんだ。ブラジルのリズム・セクションと一緒に演りたい、ブラジル風の曲をプレイしたいといつも願っていたよ。いろんなことをやって来たけれど、これだけはまだでね」と語るマリガンの念願の叶ったこのアルバム、近年作られたジャズ・アルバムの中でも突出した出来...と考えているのはまたしても私だけかもしれませんが。ブラジリアン・ボサ・バンドに管楽器はマリガンのバリトンのみ。このアルバムを見つけた時は飛び上がらんばかりに喜んでしまいましたよ!
 全11曲収録、ジョビンの'Wave'や'Amor em Paz'、トッキーニョの'Tarde em Itapoan'といったブラジリアン・スタンダードも入っていますが、その他8曲はなんと書き下ろし。しかもヴォーカルのJane Dubocも曲づくりに参加しています。このDuboc嬢、なかなかの才媛で、母国ブラジルではTVや映画のサントラで作曲もこなし、ゲスト・ヴォーカルとしてジルベルト・ジルやカエターノ・ヴェローゾのアルバムにも参加。なんかいかにも「サダ・デラ」っぽい人ですねぇ(笑)。私が強力にお薦めする理由もなんとなくわかって来ましたか?

 マリガンとJaneの出会いはこの数年前、ヨーロッパツアー中のマリガンが、同じくツアー中だった前出のトッキーニョのバンドで歌っていたJaneを聴いたのがきかっけだったようです。この2人のコラボレーション、なんとなくスタン・ゲッツ(ts)とアストラッド・ジルベルト(vo)を思い起こさせませんか。そんなユニークな出逢いだったというのに、マリガンの余命はわずか2年半。このフォーメーションでもう少し活動していたら...と考えるのは私だけではないでしょう。ともあれ、貴重な記録であるこのCDを自信を持ってお薦めします。

 ささ、続きまして彼の過去の名盤から何枚か、ご紹介。



'Birth of the cool'
(CP32-5181 EMI)
1949

'Gerry Mulligan Quartet'
(TOCJ-5411 Toshiba)
1952

'Gerry Mulligan Quartet'
(CDP-7-94472-2 Capitol)
1956

'newport Jazz Festival
1958, July 3rd-6tjh Vol.ll'
(NCD8814 Phontastic)

'Night Lights'
(818 271-2 Mercury)
1963/1965


'Annie Ross sing a song
with Mulligan'
(WP-1253 Toshiba)
1957


 まずは左上から年代順に。'49年録音の『クールの誕生』はこのコーナーの第一回でもご紹介しましたね。このアルバムに於けるマリガンの功績は「ギル・エヴァンスとともに優れたアレンジを残した」がキマリ文句ですなぁ。そんだけじゃぁないでしょう!作曲家としてのマリガンの、そのメロディー・ラインの素晴らしさも聴かなければ!中でも「Rocker」の新しさは特筆に値します。この曲と、同じくマリガン作曲の「Venus de Milo」を聴いていると、いかにも新しい時代の幕開けって感じでわくわくしてしまうな。名義は勿論マイルス・デイヴィスなので購入時にはご注意下さい。

 そして初期マリガン・カルテットの代表作がその隣、日本盤CDは当時発表された2枚の10インチLPを雰囲気を損なうことなくカップリングしたお買い得品です。「バーニーズ・チューン」、「木の葉の子守唄」といった「マリガンといえば...」の必聴曲が目白押し、飽きることなくあっというまに一枚聴かせてしまいます。「ウォーキン・シューズ」、「ナイツ・アット・ザ・タンテーブル」(いいタイトルだ)などマリガンのオリジナルも秀逸。この時期の話題はトランペットがあのチェット・ベイカーだったことでしょう。

 続く'50年代後期のカルテットのライヴ盤が上段右。これも気持ちのいい名盤ですね。よく似たジャケットですがご覧の通り、メンバーはそっくり入れ代わっています。ビル・クロウ(b)、デイヴ・ベイリー(ds)、ボブ・ブルックメイヤー(valve tb)というこちらの編成の方が日本のファンにはお馴染みかもしれない。さらにブルックメイヤーに代わりアート・ファーマー(tp)が参加したのが例の映画『真夏の夜のジャズ』に登場した”ジェリー・マリガン・カルテット”です。

 その『真夏の夜の...』ステージ7曲をそっくり収録したCDも出ている(下段左)。どうやら海賊盤らしいが音質はバッチリ、曲間でのメンバー同士の会話なども収録されています(なにやら笑ったりしているが英語がよくワカラン)。観客を超えて、ステージ袖から覗いている関係者のような気分になる不思議なアルバムである。そしてなんと映画とCDを同時にプレイすると(そんなことすんの私だけか?)映画版「As catch can」はカットされて短いということに気がつくのだ!欲しくなって来たジャズ・ファンの方、大勢いらっしゃるのでは?購入は'92年ごろ。渋谷のHMVでした。運がよければまだどこかの店頭に残っているかもしれない。これは買いですよ!

 '60年代マリガンの最も聴きやすい作品が下段中の『Night Lights』。これがまた名盤なんだ!「イージー・リスニング・ジャズ」などと呼ばれてガンコなジャズ・ヂヂイからは格下に見られているフシもあるが、こんな甘美な音楽を素直に賞賛出来ないなんて、なんて気の毒な人たちなんだろう。演奏はシクステットとクインテット。人数こそ少ないが、'50年代作品とは明らかに異なるビッグ・バンド的なアレンジの妙を感じることの出来る作品です。独特の間と静けさを持ったマリガンのピアノも聴きどころでしょう。そうそう、年配のジャズ・ファンの方々の中には、タイトル曲を聴くと「油井正一のラジオ番組を思い出す」という方も多いのでは?

 最後に今度は若い女性にお薦め、このコーナーの第二回で大推薦したアニー・ロスのバックをマリガン・カルテットが務めたユニークな作品。日本では『アニー・ロスは唄う』などと呼ばれていたかな。ジャズ・ヴォーカルの呼吸や表現を模索している人には大きなヒントとなるでしょう。
 例によってロスは決して巧くはナイ。しかし彼女のヴォーカルからは−なんともうまい言葉が見つからないのだが−ジャズを表現する...強固な「意志」、「確信」のようなものが感じられる。「ジャズとはかくあるべき、これがジャズである、これはジャズではない」というような本質的な理解だ。雰囲気に流れがちなジャズ・ヴォーカルの世界で、彼女のスタンスは貴重であろう。
 マリガンのバリトンが時に優しく、時に素早く、彼女のヴォーカルにハマる!冒頭で挙げた『Paraiso』もそうだったが、バリトンと女性ヴォーカルの相性はホント最高だねぇ。

 アルバムとしては、このほかにスタン・ゲッツ(ts)や、セロニアス・モンク(p)と一緒に録ったもの、'60年代のビッグ・バンドのもの、'70年代のGRPもの、フランスやイタリアでのライヴ盤などがあります。リリース量極めて多し。しかし駄作は少ないと思います。



1958

1992


 ここでマリガン二態、ますは左側が私が度々書いている映画『真夏の夜のジャズ』でのマリガン。'58年のニューポートです。う〜ん、カッコイイ、シビレる。クルー・カットに真っ赤なアイヴィー・ジャケット、こんなジャズメン他に居ませんぜ。
 この映画を初めて観たのはもう十数年も前のこと。当時はジャズのことも、マリガンのこともよく知らなかったんだけど、とにかくこのシーンには参った。ますは楽器で驚いた。バリトン・サックスは知っていたけど、こんな風にバンドの中でフロントに立って演奏する楽器だとは思わなかったもの。テーマが終わって、アート・ファーマーのペットに続いて、バリトンでもアドリブを吹き始めた時は本当に驚いた。
 うーん、私がバリトンのことを知ってもらおうと力を尽くして書くよりも、この映画のワンシーン、わずか4分程を観てもらったほうがいいような...そう言っては元も子もないか(笑)。

 そして右側が'92年ごろ、晩年のマリガン。「カリフォルニアの鮮やかな陽光を受けて、スーパークールにジャズを演奏する永遠の青年」と書いたのは作家の村上春樹氏。そう、誰もが持っているマリガンのイメージといえば、まさにそんな感じだ。しかし誰にでも老いはやってくる。まぶしすぎるくらいの、マリガンのブロンド・ヘアーにも。
 白髪と髭で仙人のようになってしまった'90年代のマリガンの姿。実は私はこのころのマリガンがとても好きでした。驚くほど年老いてしまったけれど、どの写真も目が優しくて。
 このころに1回だけ、最後の来日公演を観ています('93年4月11日・新宿厚生年金会館)。どんなにヨボヨボになっているのかと思ったら...とんでもない!背筋はピンとして、足取りも、演奏もしっかりしていました。なんとヴォーカルまで披露、歌い終わるなり間奏でアドリブを吹く瞬間が最高にかっこよかった。

 なんだか、改めてこんなことを書くのも変なんだけど、そうかぁ、俺はマリガンを生で観たんだなぁ。彼の人生の最後の方に、ちょこっとだけだけど間に合ったんだなぁ...。

 良いことばかり書いて来たけれど、マリガンの人生は決してスムーズなものではありませんでした。むしろ他のミュージシャンよりも険しく、困難だったと言えるでしょう。麻薬禍に苦み刑務所に入ったこともある。生活苦も酷かった、精神的な挫折も大きかったらしい...。しかしそのなかをバリトン・サックスといういささか奇妙な楽器をパートナーとして、見事に生き抜いた、いや「生き切った」マリガン。素晴らしいなぁ。

 最後に出勤途中の電車の中で、思わず声を上げてしまったマリガンの訃報。1996年1月22日の東京新聞から。







 しまった。音楽的なことがほとんど書けなかった(笑)。最後にちょっとだけ。「デキシーの手法を現代風に再構築した」なんて言われるマリガン・サウンドだけど、その常套句もうヤメにしませんか。ちょっと違うと思うんですよ。
 バリトンを買ってまずコピーしようと思ったのが当然の如く、映画『真夏の夜の...』で演奏されていた名曲「As catch can」、ところがこれが難しい!あのメロディー・ラインを、あの速さで吹くというのは超人的テクニックが必要ですよ。とりあえず、音だけ採って、ゆっくり吹いてみると...なんとほとんどクラシックの曲なんです。ほとんどフランス曲のような感じでした。
 「革新的」と言われ続けたマリガンですが、そのルーツは意外にも古典的なクラシック手法にあったのではないか、というのが私の考えです。

 「あいつはどこまでも対位法的なんだよ。いつもふたつのメロディー・ラインが聴こえているしね」と言ったのはクールの盟友、デイヴ・ブルーベック。コンボ編成にもかかわらず2管を同時に鳴らすというのもマリガンだけのアイデアです(通常は他人が吹いているときに音を出してはイケナイ)。さて今は天国で誰とハモっているのやら...。





 予想していた事態ですが、マリガンだけで1ページ出来てしまいました。フツーのページならここまでですが、「サダ・デラ」はフツーじゃない。あと10数名、バリトン奏者をご紹介。マリガンに負けない素晴らしいプレイヤーもいるのです。




オレがいうと
「ミャリギャン」と「ビャリトン」になるニャ
笑うニャ!ニャ〜ロメ




■ レコード番号について ■

 例によって、レコード番号が灰色のものは輸入盤、黒ののは国内盤です。しかし、なぜか今回採り上げたバリトンものはここ数年の間に急激に国内発売が進み、ほとんどが今や国内盤で入手可能です。しかもボーナス・トラックなんかついてたりする。ふん!




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