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97/10/04
第二回
入魂企画
はじめてのJAZZ
世界一わかりやすいジャズ入門
’さあ、最初の1枚は?’
お薦めCD23連発




 ジャズクラブの雰囲気を自宅で味わってみたい

気分その4 


 ジャズの大きな魅力のひとつが「ライブ演奏」でしょう。それも大きなホールではなく「ジャズ・クラブ」といわれる空間で繰り広げられる演奏は、ロックにはないジャズならではの妖しい時間と空気を繰り出しています。うーん、あれがいいんだよねぇ(笑)。
 とはいうものの、ジャズ・クラブこそ行きにくい、トライしにくいものの決定版ではないでしょうか。どこにあるんのかわからない、どんな人がどんな演奏をしているのかわからない、システムや「しきたり」がわからない等々、ないないづくしで困ってしまいますよね。そこで!ジャズ・クラブの熱狂をお茶の間で再現出来る名盤をふたつご紹介します。

 まず1枚目はアルト・サックスの偉人、ジュリアン・キャノンボール・アダレイのベスト盤『ザ・キャピトル・イヤーズ』です。これには本当にハマッた!ジャズ仲間から借りて聴きまくること2年「そんなに好きなら自分で買え!俺だってお気に入りなんだ!」と言われて返し、自分で探して聴き続けること3年、都合5年、いまだに週に1回はPLAYしています。とにかく聴き飽きない永遠の名盤なのだ!


"The Capitol years"
Cannonball Adderley
(CDP7954822 Capitol)


 その魅力を分析すると、まずは選曲が素晴らしい。絶対に「ああ、これか」と誰でも知っているであろう超有名曲「ワーク・ソング」に始まり、ブルーズィーなボサ・ノヴァ曲「ジャイヴ・サンバ」、バッキンガムスのヴォーカル・ヴァージョンでも知られるヒット曲「マーシー・マーシー・マーシー」などベストならではの絶妙のラインナップになっています。次に演奏、もうこれは文句の付けようがないな。キャノンボールの超人的なサックスプレイ、実弟ナット・アダレイのこれまた信じられないようなトランペット、これがブルースだ!これがソウルだ!と見せつけてくれるようなジョー・ザヴィヌルのピアノにエレピ、そしていぶし銀はユゼフ・ラティーフのテナー・サックスにフルート!もう「油が乗る」なんてありきたりな表現じゃ足りない。あの鮮度、あの芳醇さは天才料理人が作ったフルコールです。
 なんといってもそのポイントはとてもわかりやすいブルースとソウルなんだろうな。しかもどちらかというとソウル寄りなところに私はハマッてしまったようである。噛めば噛むほど味が出る、そんな魔力に捕り憑かれて5年間も聴き続けているわけだ。

 この興奮よ再びと思って、同じメンツによる有名な『イン・サンフランシスコ』('59)や『イン・トウキョウ』('63)を買ったけど、なんといっても私は『キャピトル』がイイ。あまり雑誌とかではお目にかからないけど、世間の評判はどうなんだろう?

 最後に突然'60'sポップス・ファンしてしまうが、バッキンガムスの「マーシー....」は'67年の8月にビルボードの5位、なんとこのキャノンボール・クインテットのインスト盤も同年2月に11位まで上がっている。ラムゼイ・ルイスのころでも書いたけれど、いいネェ、いいネェ、この時代のビルボード。良い音楽ならばジャンルは問わないって感じが、素晴らしいな(バッキンガムス、サークル、フィフス・アベニューなどあのころの極上ポップス・バンドはいずれ!音楽コーナーで!)。


 さらにもう一枚、これは世界的有名盤、ウエス・モンゴメリー(g)の『フル・ハウス』('62)です。私はこのアルバムを聴いて、ジャズ・ギターに目覚めてから、ちょっとジャズに対する考え方が変わりました。ジャズの「洒脱さ」を学んだ、というかね。


"Full House"
Wes Montgomery
(VICJ-23581 Victor)


 それまでは演奏も、聴くのも管楽器一筋だったんだけど、管楽器ってちょっと「求道的」というか、ストイックな感じがするんだな。わき目もふらず一心不乱に演奏する感じとでもいうかね。ところがジャズ・ギターはちょっと違った。まず楽しい。音楽の楽しさがフレット・ボードの上から溢れ出てくるような感じがする。さらにアイディアの豊富さにも驚かされた。音色が地味だから、逆に表現で「聴かせる」のかもしれないな。管楽器とは微妙に違うフレージングに、とても親しみやすい「歌心」を感じたし、弦楽器ならではの「間」や「タメ」の組み合わせはなんとなく日本の「わびさび」に通じるところもあった。うーん、なんか日本人とジャズ・ギターって相性いいんじゃないのかな?

 このアルバムが気に入ったら、是非「宮之上貴昭&スモーキン」のライヴを観に行って下さい。ギターの宮之上(タカアキと書いてヨシアキと読む)は有名なウエスそっくりプレーヤー。特にテナーの岡淳(ジュンと書いてマコトと読む)がゲストの時はなんとこのアルバムをそっくりそのまま再現してしまうのだ!去年の秋のこと、会社の帰りに「ちょっと寄ってみるか」ってな感じでこの2人を観て、本当にブッ飛んだよ。超愛聴盤を次から次へと生で演奏してくれるんだから!

 さあ、この2枚を聴いたら、つぎはジャズ・クラブですね。タバコの煙、グラスのぶつかる音、薄暗い照明....一度体験してしまうともう抜けられない。ジャズ地獄2丁目3番地くらいかな?







 ちょっと渋いジャズ、妖しいジャズを聴いてみたい

気分その5 


 まあ上の2枚で正しいジャズ・ファンになったら、今度は渋さや、妖しさを求めて欲しいと思います。薄暗いバーでちょっとキツイお酒に挑戦してみるあの感じ(?)です。

 帝王マイルス・デイヴィス(tp)の超名盤『カインド・オヴ・ブルー』('59)はジャズの持つ「静」の部分を最も的確に表現したアルバムと言えるでしょう。眠れぬ夜にたまらなく聴きたくなる、そして聴き始めるとたまらなくアルコールが欲しくなる。なるほどジャズとは「そういう世界」の音楽なのかと身をもって理解されることでしょう。
 音楽的なことを言えば、この作品によって「モード」と呼ばれる手法が確立され、60年代の、いや現在にまで通じるクールで理知的なサウンドの流れが決定づけられた、なんてことは評論家にまかせておくか。OK、もっと身近な話で行こう!マイルスについて語ると、どうしてもハードな物言いになってしまうので、ちょっと文体を変えて....。


"Kind of Blue"
Miles Davis
(CSCS5141 Sony)


 私は、仕事から帰って本当に疲れたときにこのアルバムを必ず聴いてしまうんだけど、なんでなんだろう?たぶん「余白」のせいだろうな。この作品、全曲を通じて独特の「余白」がある。参加メンバーは実は結構多い、なのに全員がドーッと出てくる感じでは全くない。おとなしめのリズム隊にのせて、一人づつが極めて冷静な、それでいて魂の籠もったプレイを順番に繰り広げて行く。そしてテーマで全員が揃う。でもここでも絶妙の編曲が施されていて、やかましさは全く感じない。あるのは軽い緊張感と深い安堵感だ。

 ファンの人がいたら申し訳ないんだけれど、私はいわゆる「ヒーリング・ミュージック」みたいなものを全く受け付けないのだ。それ専門の某有名レーベルなど、その存在が罪悪じゃないかとまで思っている。なんでそんなに嫌いなのかというと、音楽は音楽としてまず作られて、その結果として偶然にも、副産物として人に安堵感を生ませるんじゃないかと思っているからだ。音楽は薬ではない。「リラックスのための音楽」というのは本末転倒、音楽としての存在を放棄していると思う。
 あんなもの聴くなら、このマイルスを聴け!マイルスはリスナーのストレスを解消させるためにこのアルバムを作ったわけではない。So What!そんな迎合は彼の最も嫌うところだ。しかし我々は本当に深い安堵感をこのアルバムから受ける。マイルスはただ、自分の演りたいことを演ったまでだ。そこに含まれるエッセンスを理解し、汲み取るのはリスナーの任務であり、同時に至福でもある。音楽とはそんな緊張関係で成り立っているものなのだ。な〜んて、深夜にこういうサウンド聴くと急に哲学的になってしまうな、ふふふ。


 さて、もう1枚、今度は「動」を聴いてみましょう。カーティス・フラー(tb)の『ブルースエット』('59)は一家に一枚の必聴盤。『カインド・オヴ・ブルー』同様極めて冷静な演奏が続きますが、こちらはもう少し動的な印象があります。


"BLUES ette"
Curtis Fuller
(COCY-9006 Columbia)


 結構テンポも速いし、メロディーもハッキリしている、それでいてこのクールさ。その原因はなんといってもフラーの演奏するトロンボーンという楽器の音色でしょう。金管楽器ながらちょっとくすんだそのサウンドと、スライドによる音階移動のスムーズさは他のどんな管楽器にも真似の出来ないなんともいえない哀感を醸し出しています。ほかにもジャズ・トロンボーン奏者は数多くいますが、特にこのフラーはそんなトロンボーンの魅力を最もわかりやすく表現するプレイヤーといえるでしょう。他の人だともうすこしパキパキ吹いたりするんですけどね。
 絶妙のコンビネーションを見せるテナー・サックスのベニー・ゴルソンにも注目。TVCMにも使われていた有名曲「ファイヴ・スポット・アフター・ダーク」の中盤で見せる2人のユニゾンはジャズ史上に残る究極のストイック・プレーといえるでしょう。このノリ、このタメが簡単そうに見えて、チェッ、なかなか出せないんだよなぁ、自分で演ると....。

 この2枚とも信じられないような大スター達によって演奏されています。マイルスとフラーのリーダー作ということになっていますが、リーダー以外(サイドメンといいます)の演奏を聴くのもジャズ・アルバムの楽しみのひとつ(もっとも彼らを「サイド」なんて言っては失礼極まりないですが。それほどのメンツなんです)。『カインド・オヴ....』を聴いて「な、なんだ、このカッコイイベースは?」と思ったら次はポール・チェンバースをチェック、『ブルースエット』の表情豊かなピアノが気に入ったらトミー・フラナガンをチェック、といった要領ですな。
 ライナーを引っ張り出して曲ごとのサイドメンまで調べ出すと、そろそろジャズ地獄3丁目の入り口ってところかな。やれやれ。







 「ジャズ・ヴォーカル」って一体どんなの?

気分その6 


 ジャズ・ヴォーカルに惹かれる人も多いだろうな。しかし、これが深い!深いのだ!数年前にちょっと凝りかけたんだけれど、その宇宙の広さには本当に参った。「ジャズ」と同じくらいの大きさの「ジャズ・ヴォーカル」というジャンルがあるんじゃないのかと思った程です。それではその宇宙の入り口をご紹介。こちらです。

 はっはっは!この文章を書くためにひさびさにPLAYして、思わずオープニングで大声で笑ってしまったよ。こりゃ最高だぜ!希代のヴォーカル・グループ、ランバート・ヘンドリックス・アンド・ロス(L,H&R)の『ザ・ホッテスト・グループ・イン・ジャズ』はジャズ・ヴォーカルの色気や粋をオープニングの数秒で教えてくれます。
 


"The hottest new
group in jazz"
Lambert,Hendricks
and Ross
(SRCS7145 SONY)


 色気担当の女性ヴォーカル、アニー・ロスは、実は、あまりセクシーではナイ。でもそれも私がこのグループに惹かれる理由なのだ。子役出身で数々の舞台や映画に出演、漫才コンビまで組んでいたこともあるというロスのヴォーカルは、女の色気を武器にするようなけだるいジャズ・ヴォーカルの対極、惚れ惚れするような逞しくさとユーモアに満ち溢れている。我々本当に音楽を「愛している」ようなタイプの音楽ファンからすれば、逞しい彼女こそが「女神」であろう。言ってみれば「ノリのいいバンド仲間」って感じなのだ!
 粋担当はデイヴ・ランバートとジョン・ヘンドリックス。ここでふと思ったのだが、この3人本当に「巧い」のだろうか?ロスのハイノートはいつもヨレヨレだし、男性陣のヴォイシングもあまりにも雑だ。でも、そう、これでいいいのだ!彼らの存在理由はジャズといういかめしい音楽を我々でも出来るかもしれない、好きならば、やる気があるならば誰にでも挑戦できるものなのだと「解放」してくれたことにあるのだから。
 彼らのことを考える時、いつも思い浮かべてしまうのはいわゆるジャズ・メンではない。イカしたモッズ・サウンドで絶大な人気を誇った'60年代のイギリスの歌手ジョージィ・フェイムや、'70年代のアメリカのシンガー・ソング・ライター、ジョミ・ミッチェルなどなど、ユニークな「ポップ・スター」ばかり。彼らはみんなL,H&Rの大ファンで、カヴァー・ヴァージョンも発表しているのだ。そして女性1人+男性2人という編成は、古くはロジャー・ニコルス&ザ・スモール・サークル・オヴ・フレンズ、最近ではディー・ライトやピチカート・ファイヴなどを想起させる。
 そう!L,H&Rは歴史の1ページに封じ込められた単なるジャズ・ヴォーカルではない。今日、この日まで、脈々と流れるポップ−「ヒップ」と言った方がしっくり来るが−アーティストの第1号なのだ。

 しかし、もうこの3人を生で聴く事は出来ない。'66年にデイヴ・ランバートは交通事故で他界しているのだ。人の命に上下はないが、時間をかけてなにかを極めた者の死というのはその才能もでも一瞬にして失ってしまうようで、なにかもの悲しい。このアルバムの最後を飾る「エブリバディイズ・バッピン」のイントロで、本来は入れるつもりはなかったのだろうが歌い出しのリズムを取るための指を鳴らす音が入ってしまっている。誰が鳴らしたのかはわからないが、リーダー格だったランバートの可能性が高い。そう考えると生前の彼の、リアルな一瞬を覗き見てしまったような気がして、そして彼の死が身近に感じられてしまって、私は本当に心が痛む。

 ちょっと湿っぽくなっちまったな。3人の輝かしい時間はCDの上で今も生き続けています。'93年に再発された国内盤は容易に入手が可能。「このレコードこそぼくのいちばん聴きたかった音楽だ」とまで断言する小西康陽氏(ピチカート・ファイヴ)の解説は必読でしょう。


 しまった、L,H&Rがやたらと長くなってしまった。ここではあと2枚紹介したいのだ。まずはやはりヴォーカル・グループで、フォー・フレッシュメンの'55年の作品『フォー・フレッシュメン・アンド・ファイヴ・トロンボーンズ』。今回のお約束である「1曲も飽きることなく、最後までタップリ」に見事にマッチしています。


"Four Freshmen
and 5 trombones"
(TOCJ-5321 EMI)


 4人の男性ヴォーカルと5本のトロンボーンを見事に組み合わせたのはアレンジャーのピート・ルゴロ。実は私はルゴロの大ファンなのだ!ハッキリ言ってちょっと「ヘン」なアレンジをいつもやってくれる人で、それでいて聴きやすい、それでいて快感というところに天才さを感じます。オリジナルの貴重盤を何枚か持っていますが、今、一番欲しいのはルゴロ楽団の'55年の作品その名も『ルゴロ・マニア』。ボブ・ゴードンというバリトン・サックス奏者も大活躍しているらしくて、まるで私の為にあるようなアルバムなのに....。
 ちなみにこの『フォー・フレッシュメン..』、我が家には3枚もあります。1枚は父親のCD、あとの2枚は私のCDとアナログLPです。それほどまでに身近に置いておきたい、いつも聴きたい名盤です。


 「おいおい、なんだよサダナリってヤローは。亜流ばっかりじゃねえか!」と巷のジャズ・オヤジ達の罵声が聞こえ始めたので、最後は王道!ヘレン・メリル『ヘレン・メリル・ウィズ・クリフォード・ブラウン』('54)です。このアルバムを知らないジャズ・ファンはいない!とまで断言出来るジャズ・ヴォーカルの名盤中の名盤。2曲目「ユッド・ビー・ソウ・ナイス・トゥ・カム・ホウム・トゥ」は少し前にSEIKOの時計のTVCMに使われていたヴァージョンそのものです。聴けば「ああ!これ知ってる!」と絶対に思い出しますよ。ヘレン・メリルは決して「美声」ではないところが魅力でしょう。絶妙のテクニックと、ハスキー・ヴォイスの組み合わせがイヤってくらいにジャズを感じさせてくれます。


"HEREN MERRILL"
(PHCE-4101
Phonogram)


 アレンジのクインシー・ジョーンズ、そしてトランペットのクリフォード・ブラウンにも注目。クリフォードも人気絶頂だった'56年に交通事故でその一生を終えているのですが、彼ほどそ惜しまれつつ死んでいったジャズ・メンもいないのではないしょうか。彼とその死には数々のエピソードが残されているのですが、それはいずれ。今はこのアルバムで、その演奏に耳を傾けましょう。

 しかしヴォーカル、まだまだ紹介したいものがあります!ダブル・シックス・オヴ・パリにスィングル・シンガーズ、ジャッキー・アンド・ロイといったヴォーカル・グループの系譜や、コケティッシュなブロサム・ディアリー、ゴスペルの流れを汲むマヘリア・ジャクソン、ヒップの権化ボブ・ドロウ、そして大物シナトラ、ナット・キング・コール、ビリーにエラにサラ....いずれ大特集します!しばらくお待ち下さい。







 やっと半分を越えました。いかがですか、聴いてみたいのはありましたか?マイルスとL,H&Rはちょっと思い入れが入り過ぎて、恥ずかしい文章になってしまったな....。さて次のページは、にぎやかでホット!バカボン・パパに連れていってもらいましょう。




ワシはにぎやかな方が好きなのだ
次はビッグ・バンド、ボサノヴァにラテン・ソウルなのだ
早く行くのだのだ






■レコード番号について■
 左側のレコード番号は全て私が持っているものを基準にしています。ゆえに国内盤、輸入盤が入り交じっています。そのままでは不便なので国内盤は黒、輸入盤は灰色で表しました。輸入盤のなかには国内盤でも出ているものもありますし、国内盤は発売されておらず、輸入でしか手に入らないものもあります。但し貴重盤は入っておりませんので、いずれも全国のタワー・レコード、HMV、新星堂などで入手可能と思います。




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