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97/12/07
第三回
バート・バカラックを
愉(たの)しむ
来日記念徹底研究


■ 5.勝手にバカラック


'A&M Songs of Burt Bacharach'
Various
(POCM-1528 Polydor)
 これもお薦めである。2年前の暑〜い夏に買って、ベランダで転がりながら毎週末聴いていました。実は最初、なんともバラバラな選曲だなぁ、と思っていましたが、改めて考えてみると今回分類しているオリジナル、セルフ・カヴァー、勝手にカヴァー、ジャズ・ヴァージョンをマンベンなく集めた好編集であることに気がつきました。その意味では「勝手に」とは言い切れないところもあるのですが。

 ご本家A&Mレコードに残された音源を中心にセレクトされており、バカラック自身のヴォーカルが聴ける「メイク・イット・イージー・ユアセルフ」に始まって、セルジオ・メンデスの「恋の面影」、ボサ・リオの「サン・ホセへの道」、B.J.トーマスの「雨に濡れても」、カーペンターズ盤「遙かなる影」などマスト・アイテム満載。こりゃあ買いだ!

 選曲はおなじみ評論家の萩原健太氏、リアル・タイムで、そして今でもバカラックにこだわり続けている氏ならではの納得のセレクション。解説もヨシ。ディオンヌを聴いたら、次はこれを。自信を持ってお薦めします(但し解説に一部誤りあり。みなさんもきっと気がつきますよ)。



'レディメイド、バカラックを讃える'
Various
(SRCS7470 Sony)
 ピチカート・ファイヴの小西康陽氏がタッチしたコンピレーションを少々。まずはこのレディイメイド盤、うーん、聴く頻度で言ったらこれが一番高いかな。レコード会社の関係でA&M盤とのダブリは全くなし(米Columbia音源からのセレクションです)。その意味ではこれこそ「勝手にバカラック」度が高いですね(例外でザ・ファイヴ・ブロブスの「ザ・ブロブ」と、サントラ・ヴァージョンの「遙かなる影」が入っていますが)。

 しかしこれが楽しめるのだ!ポップ・シンセの開祖のひとり、ウェンディ・カルロスのユーモアたっぷりの「何かいいことないか子猫チャン」でスタートし、冒頭のヤマが前述したパーシー・フェイス・オーケストラの「素晴らしき恋人たち」、中盤にもレイ・コニフ・シンガーズの「サン・ホセへの道」〜ジャズ歌手メル・トーメがロックに挑戦した「マイ・リトル・レッド・ブック」〜ソフト・ロックの雄、ザ・サークルが歌う「イト・ダズン・マター・エニモア」と大ヤマがあり、終盤もモンゴ・サンタマリアによるコテコテ・ラテン・ジャズ版「ウォーク・オン・バイ」、ボサの女王、アストラッド・ジルベルトが歌う「ウォンティング・シングス」(CTI盤!)、クール・オルガンのジョニー・デュポンによる「素晴らしき...」など、聴きどころ満載。

 なんともこの雑多でゴキゲンな選曲が「パーティーのBGM」を思わせるところは、優れたDJでもある小西氏のキャラクターによるものでしょう。また同時に、このアルバム資料価値も高し。曲間になんとバカラック自身への電話インタヴューの模様が入っており、その全訳も載っています。小西氏の入魂のライナーも名文なり。パーティーで良し、車で良し、読んでも良しという、まぁバカラック中級者の「3枚目のアルバム」ってところでしょうか。



'Atarantic Bacharach collection'
Various
(AMCY879 WEA)

 'Whip hip Bacharach'
 Various
 (MVCE-22004 MCA)
 アトランティック・レーベルのソウルフルな音源からセレクトしたのが左の一枚。小西氏は「監修」としてタッチ。レコード輸入&プロデュース業の長門芳郎氏、選曲家の坂口修氏との鼎談にも登場しています。これが結構いい読み物だったりするのだが...。
 肝心の音の方は、うーん、正直当たりハズレアリかな。アレサ・フランクリンの「小さな願い」や、ザ・ドリフターズの「イン・ザ・ランド・オヴ・メイク・ビリーヴ」、「メキシコでさよなら」は必聴の名曲ですが、その他にはかなり??な曲も入っている。まぁ、徹底的に集めるならばこれも、というところでしょうか。無理には薦めません(私もたま〜にしか聴かないや)。

 小西ファミリーの(コムロみたい、気持ち悪い?)前出、坂口氏がMCA音源からセレクトした'Whip hip ...'くらいになると、さすがに「柳の下に泥鰌はナントカ」ってヤツで、B級楽曲の感は拭えませんな。ラムゼイ・ルイス、シャーリー・スコットなど、コテコテ・ジャズ寄りの選曲が個人的には興味深いが、なんか、ムード音楽の様でもアル。お金に余裕のある人はどうぞってところか(坂口さんすいません)。


■ 6.ジャズで聴くバカラック



'What the world needsnow'
McCoy Tyner
(MIPO-197 Impulse!)

 'Blue Bacharach'
 Various
 (724385774928 Blue Note)
 結論から書こう。「バカラック・ジャズに名曲ナシ」である。マッコイ・タイナー(p)のバカラック集、発売されたときはジャズ専門誌でエラク持ち上げられていたが、これじゃリチャード・クレーダーマンだ。ウィズ・ストリングスがイケナイのかな?なんちゅうか、ほぼ、完璧にムード音楽。しかもタイクツなヤツだぜ。
 自分達の愛するジャズが優れたもので、今でも名盤が次々発表されているということを載せて、どうにかシーンを盛り上げたいというジャズ専門誌の気持ちもわからないではないが、悪いものは悪いと書かないと、ジャズ入門でコレを買った人間を失望させることになるではないか。逆効果だぞ!
 ちなみにこのCD、ジャズ漫画家、ラズウェル細木氏の作品にも登場。最後のオチが「一生聴かないかもしんないコーナーに入れとこ」であった。ジャケットの裏じゃバカラックさんとタイナーさんがにっこり記念写真まで撮っているのに、マンガのオチに使われてしまうとは...。とほほの極致でアル。

 ブルーノートに残されたバカラック・ナンバーを掻き集めた'Blue Bacharach'は大物ジャズ・メンの「やっつけシゴト」の集大成。グラント・グリーン(g)が眠りながら弾く「恋よさよなら」や、スタンリー・タレンタイン(ts)がめちゃくちゃ体調悪い時に吹いた「ウォーク・オン・バイ」など、確かに「貴重といえば貴重」な音源が目白押しです。
 しかし3曲目「小さな願い」のリー・モーガン(tp)はちょっと酷いんじゃないか?アドリブがアンドリュー・ヒル(p)の「Mira」(Blue Note 4303)とミョーに似てる。まぁリーさんも、30年も経ってからこんなところで指摘されるとは思ってもみなかっただろうけどさ。それにしてもみんな手ぇ抜いてやがるなぁ。
 リイシューにも愛情がないよね。ジャケットのへったクソなイラストはなんなの?これじゃ「藤田まこと」だってばさ(あまりに似ていないので誰だかわからないという最悪の事態に備えて、胸に'BB'、更にネックレスに'B'のダメ押し。ダサぁ〜)。


'Great Jewish Music'
Various
(TZ7114-2 TZADIK)


 『Great Jewish Music』はニューヨークのニッティング・ファクトリー系前衛アーチストによるバカラック集。これも発売当初「意欲作!」などと書き立てられたが、わっかんねぇぞ、これ。私はあのヘンのサウンド、ちょっと聴いてたんで「おーやっとる、やっとる」てな感じですが、フツーの人が聴いたら「こ、これ音楽ですか?」だろうなぁ。
 ちなみにここに参加しているアーティスト達は、良心的ジャズ入門サイト「勝手にジャズ」で「ド素人は絶対に手を出してはイケマセン」と書かれています。しかも2枚組で結構高い。超上級者向きとしておきましょう。私も、お金に困ったら多分手放す....。

 でも、マーク・リボー(g)の「ドント・ゴー・ブレイキング・マイ・ハート」や、チボ・マットの本田ゆかとショーン・レノンがやった「ルック・オヴ・ラヴ」、ビル・フリゼール(g)の「愛を求めて」等、ちょっとした聴きモノもあるにはあるんですが...。




 

 なんか「悪い、悪い」って書いていまったが、昔のジャズ版の中にはいいものもあるのだ。健太氏盤に収められたピート・ジョリー(p)の「愛を求めて」や、前述した小西=レディ・メイド盤のコテコテ・ラテン・ジャズ版「ウォーク・オン・バイ」など、ものすごく気に行っています。もしみなさんもバカラック・ジャズの名演を御存知でしたら当サダナリ・デラックスまでお教え下さい。なんたって「ジャズとロックと素敵な映画」のページなんですから。







'Five by five'
Piaaicato Five
(ole096-1 matador)


'The secret life'
Harpers Bizarre
(WPCP-4703 Warner)


'Goodbye cruel world'
Elvis Costello and
the Attractions
(MSIEC9 MSI)


'inroducing...
the four king cousins'
(MMCD-1009 M&M)


'The Carnival'
The Carnival
(WPS-21894
World Pacific)
■ 7.こんなところにもバカラック

 
最後に1、2曲だけ、バカラックをカヴァーしているアルバムをまとめて。まずは日本代表、ピチカート・ファイヴのアメリカ盤『Five by Five』。ここでは64年にボービー・ゴールズボロが歌った「ジャパニーズ・ボーイ」をカヴァー。ピチカート・ヴァージョンを聴いたバカラック氏、「こんな曲良く知っていたなぁ」と驚いたそうですが、日本のロック・マニアには昔からお馴染みでしたね。ソフト・ロックの名盤ハーパース・ビザールの『シークレット・ライフ』を通して知っていたという方は多いと思います。ハーパース版のアレンジャーはニック・デカロ。このホンワカとしたサウンドを「バーバンク・サウンド」と言うのですがそれについては、いずれまた。
 どちらも名演です。ピチカート・ヴァージョンは、コピーしていつかステージで演ってやろうと企んでいるのですが。ちなみにピチカートは96年発売の未発表音源盤『グレイト・ホワイト・ワンダー』にもスタジオ・ライヴ版「(ミー)ジャパニース・ボーイ」と、「何かいいことないか子猫チャン」が収録されています。

 度々登場のエルヴィス・コステロもバカラックこだわりアーティーストの一人。84年ごろに盟友ニック・ロウと共に「ベイビー・イッツ・ユー」を録音、諸々の事情ですぐには発売されなかったのですが、ベスト盤『アウト・オヴ・アワ・イデオット』に一旦収録され、最近、84年のアルバム『グッドバイ・クルエル・ワールド』のCD化に際してボーナス・トラックとして発表されました。めでたしめでたし。
 先程も書きましたが、コステロのヴォーカルとバカラック・ナンバーの相性は最高!押さえるところ、シャウトするところが、本当に気持ちよくキマルんだ。お気づきかもしれませんが、私は熱烈なコステロ・ファンでもありまして、この二人にまつわる風のウワサ、「コステロ=バカラックで共作アルバム発表」が気になって仕方ないのだ!ホントなんだろうか?ライヴなんかやった日には、わたしゃ失神してしまうぞ!
 ちなみにコステロは95年のアルバム『KOJAK Variety』でもバカラックの「プリーズ・ステイ」を採り上げています。

 時代的な背景もあり、ソフト・ロック系アーティーストのバカラック・カヴァーは極めて多し。中でもフォー・キング・カズンズ「ウォーク・オン・バイ」は良く聴いたなぁ。

 しかし、注目は謎のマイナー・グループ”ザ・カーニバル”なのだ!コテコテ・フィフス・ディメンション(あのサウンドをさらにコテコテにした!)という感じの強烈なグルーヴ、これクラブ・プレイしたらお客さん熱狂だよ。アルバム『ザ・カーニヴァル』に収録されたバカラック・ナンバーは「ウォーク・オン・バイ」「リーチ・アウト・フォー・ミー」の2曲。アルバム自体は凄いが、肝心のバカラック・ナンバーはちょっとショボいという、う〜ん、なんともコメントの難しい作品である(苦笑)。
 他にはボッサの名曲「Laia Ladaia」や、バーズの「ターン・ターン・ターン」、ロジャー・ニコルスの「ラヴ・ソー・ファイン」、そして怒濤のような「サン・オヴ・ア・プリーチャー・マン」などもカヴァー。ある種のロック・ファンには堪えられない作品となっています。
 この紹介でピンと来た人は、輸入アナログ専門店に急げ!イヤな店では\9800、良心的な店では\2800でした。健闘を祈る!

 その他、思いつくままに書いて行くと、古くは83年、高橋幸宏がアルバム『薔薇色の明日』で「エイプリル・フール」をカヴァーしていましたね。実はこの曲が、私の「後期バカラック・リスニング」のきかっけだったりする(前期は街中で流れていた小学校ごろ)。ライヴも観たな。鈴木慶一がヘタウマなエレピ(イーミュレーター)を弾いていたのを覚えています。
 「お、こりゃ凄い」と思ったのが東京スカパラダイス・オーケストラが演奏したスカ/レゲエ・バージョンの「ザ・ルック・オヴ・ラヴ(愛の面影)」。93年のアルバム『Pioneers』に収録されています。ペットの「ナーゴ」こと名古屋君義選手大活躍!ライヴも良かったねぇ。
 ピチカート小西氏は、クール・ジャズ・コンボ”トーキョーズ・クーレスト・コンボ”でも3曲ほど演奏。92年のアルバム『クルー・クラブ・カレンダー』でまとめて聴けます。気持ち良し。

 コンピやトリービュート盤もまだまだ数々あり。最近店頭で見かけるのは『スウィート・バカラック』、『メロウ・バカラック』なるコンピ2点。内容はここに挙げたアーティストの作品をとにかくゴッタ煮で集めたものの様です。エーサイド盤の代わりになるような、ならないような...。スワン・ダイヴなどが参加した『アプローズ』というトリビュート盤もごく最近出ました。中身はまぁまぁってところ、必携ではナイです。
 「モンド」というか「ラウンジ」というか、妖しげなムード音楽アーティストにも絶大な人気。イノック・ライト・オーケストラなどアルバム『スペース・アウト』で4曲も採り上げているのだ。そうそう、ラテン・ヴァイブのカル・ジェイダーによるバカラック集なんてのもあったな。



 ここまで。キリがないや。ぱっと思いついたのだけでもこんなにあるんだから、本気でレコード棚調べたらどれくらいあるんだろう?あまりに長くなるので、あえて省略したアーティストもいます。
 ご覧の通り、時代も、スタイルも超えて世界中のアーティストに演奏されているバカラック。私が予告で「20世紀最大のポピュラー音楽作曲家」と書いたのもご理解頂けるでしょう。

 しかもそれが「過去の人」ではなく、現役バリバリで新曲も発表、ライヴまで演るというのだから...。というわけで、いよいよ最後のコーナー、先日の来日コンサート・レポートです。
 萩原健太氏をして「今世紀最後のビッグ・チャンス」と言わしめた名演でした!バート・バッカボンパパをクリックして、次頁へどうぞ。





いよいよラストなのだ
聴き書きした全曲リストがあるのだ
最後のクリックなのだ




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