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97/12/07
第三回
バート・バカラックを
愉(たの)しむ
来日記念徹底研究



■ アルバムで辿るバカラック ■


 お待たせ致しました。バカラックCDガイドです。しかし、まったく、驚いた。私はバカラック・コレクターではないのですが、「どれどれ」と思ってCD棚を見ると、あるわあるわ、膨大な量のバカラックさん。集中的に買ったことはないので、長い時間を掛けて自然に集まった、極めてナチュラルなコレクションと言えるでしょう。

 いいものもあれば、正直、悪いものもある。このページをきっかけにバカラックの世界に触れる方だっていらっしゃるのだから、悪いものは悪いと書きました。なお例によって、レコード番号と会社名が灰色のものは輸入盤、黒いものは国内盤です。

 しかし主立ったところだけでこんなにあるのだから、ちょっとしたカヴァーものまで入れたらいったいどれくらいになるのやら...。


■ 1.オリジナルで聴くバカラック


'Burt Bacharach & Hal David Songbook'
(VSOP CD 128)
(Connoisseur Collection Ltd.)
 ここでいうオリジナルとはバカラック自身の演奏のことではなく、バカラックが書き下ろして提供した相手、オリジナル・シンガーのことです。
 その意味ではこのアルバムはなかなかのこだわりがあって面白い。もちろんディオンヌも数多く収録されていますが、ジャッキー・デシャノン盤「世界は愛を求めている」、シラ・ブラック盤「アルフィー」、ジーン・ピットニー盤「タルサから24時間」など、オリジナルまたはその時代に人気のあったカヴァー・シンガーのヴァージョンをきっちりと押さえてあります
 またこのCD、イギリス盤ならではの独自の選曲もされています。「ストーリー・オヴ・マイライフ」がオリジナルのマーティー・ロビンスではなく、翌年イギリスで1位となったマイケル・ホリデイだったり、「恋のウエイトリフティング」(いくら東京オリンピックの年にヒットしたからってこの邦題はあんまりだぁ)が大英帝国の超アイドル、サンディ・ショウになっていたり。
 このページで今まで採り上げて来たテイクを23曲、的確に収録した名盤なり。私が持っているのは純粋な輸入盤ですが、最近は日本語解説の付いた国内再梱包盤も出ている模様。時代性も考慮しつつオリジナルで聴いてみたいという方に絶対のお薦めです!


'Burt Bacharach Masterpiece'
(A-Side Record)
Vol.1
(AZ-5011)
Vol.2
(AZ-5014)
Vol.3
(AZ-5027)
 悲しいお知らせをしなければなりません。このCDを出している「エーサイド・レコード」がごく最近、活動停止、わかりやすくいえば潰れてしまったそうです。
 なんてこったい!私がここまでバカラックに詳しくなれたのもこの3枚と、本当に素晴らしい解説のお蔭なのに。初のヒットとなったマーティ・ロビンス盤「ストーリー・オヴ・マイライフ」、度々出てくるバカラック自演の「ザ・ブロブ」で始まるVol.1は、職業作曲家だったころのバカラックの作品を年代順に並べた名コンピレーション。ちょっと突っ込んだ選曲のVol.2と合わせて聴けば、もう初期バカラックは完璧でしょう。
 マジメなハナシ、先日の来日コンサートで全曲たっぷり楽しめたのも、これらのアルバムを長い間、聴き込んでいたからです。「リバティ・バランスを撃った男」収録のCDなんて、世界的にも珍しいのでは?ホントに、これから聴く人は初期バカラックについて、どうすればいいんだ!
 というわけで、もしCDショップの店頭で見つけたら即ゲット。さすがにVol.3まで来るとちょっとマニアックになってしまうけれど、Vol.1、Vol.2はお薦め。特に1は必携でしょう!


■ 2.サントラで聴くバカラック



'Casino Royale'
O.S.T.
(SLCS-7016)

'What's new pussycat'
O.S.T.
(UAS5128)
 『カジノ・ロワイヤル』−史上最強のサントラではないか、と思う。とにかく大好きなのだ。特に私の場合、映画本体をしっかりとスクリーンで観ているので、思い入れが強いのかもしれないなぁ。
 映画を観たのは94年暮れのこと。007の徹底的パロディーであるこの作品、69年の日本初公開時はあまり評判が宜しくなかった(というか全く理解されなかった)ようですが、25年後のトーキョーで観てみると...面白いじゃないか!オープニング・タイトルとテーマ曲の組み合わせでドキドキし、ファースト・ショットの空撮とジャズ・タッチのナンバーで鳥肌が立ち、名曲「ボンド・ストリート」のシーンではイスの上で飛び跳ねて喜び、UFOのシーンで満面の笑み。最高だったっす!あまり映画を観ない元・音楽ライターの同行者までが「本当に面白かった」と言っていました。ありふれた表現ですが「やっと時代が追いついた」ということかな?

 バカラックのインストの世界を知りたい人はまず『カジノ・ロワイヤル』から絶対損しません。でもこの愉快な音楽の洪水を聴いたら、映画も観たくなるでしょう。VIDEOはCRS10249、ソニーから3800円で発売中です。サントラも、VIDEOも、お薦めです!
 しかしこのCD、大阪の「SLC.INC」とかいう超マイナーなレコード会社から出ているんだけど、ここは潰れていないでしょうね。これがなくなったらまた超レア盤時代に逆戻り。その昔は「謎のポルトガル盤CD」なんてのに群がっていたのだった。SLC頑張ってくれい!

 頑張りついでに『なにかいいことないか子猫チャン(What's new pussycat)』のCDなんてのも出してくれないかなぁ。このアルバム、CD化されておらず、私は輸入のオリジナルLPで持っています。高いんですよねぇ、オリジナル。渋谷のオシャレ・レコード店ならば10000円でしょう。私は工場勤務時代の94年ごろ、千葉駅付近のヒミツのレコード店で買ったんですが、それでも4000円でした。
 ちょっと勇気要ったけど、買って良かった!愛聴盤です。なによりもマンフレッド・マンの「マイ・リトル・レッド・ブック」とアナログ特有の力強いサウンドで出会えたのが良かったな。「マイ・リトル...」は前出の『Masterpiece Vol.1』にも入っていて、しばらくしてCDで聴き直したんだけど、何故かアナログで聴いた時の、こみ上げてくるような感動はありませんでした。
 マン以外にも名曲多し!もし、ご近所の中古レコード店で埋もれていたら家に連れて帰って、ターンテーブルの上に乗せてあげて下さい。



'明日に向かって撃て!'
O.S.T.
(CD3159 A&M)

'Grace of my haert'
O.S.T.
(MCAD-11554 MCA)
 『明日に向かって撃て!』のサントラは、うーん、ちょっと物足りないかもしれませんね。確かに名曲「雨に濡れても」は入っているし、メインテーマの「The Sundance Kid」もいい曲ですが...いかにもサントラで、「ポップス、ロック」ではないんです。この作品でバカラックは73年のアカデミー賞音楽賞、主題歌賞の2冠に輝いていますが、アルバム自体はたった27分で地味でした(映画は文句無く名作なんですが)。「雨に...」も「Sundance...」も他で聴けますから、これは無理をしなくてもいいでしょう。

 サントラの最後は日本公開97年4月の『グレイス・オヴ・マイ・ハート』です。本編は音楽出版社が集中したニューヨークのミュージック・ビジネスの城「ブリル・ビルディング」を舞台に、ガールズ・ポップ・グループに曲を書き、実験的サーフロック・バンドのリーダーと出会い、サイケデリックも経由してピッピー的に隠遁、シンガー・ソング・ライターで再出発するという、キャロル・キングの半生をベースに、50年代から70年代までのアメリカン・ロックのエッセンスを詰め込んだポップス・ファン必見の作品でした(私は初日に観ました)。
 収録されているバカラック・ナンバーは1曲のみ「ゴッド・ギヴ・ミー・ア・ストレングス」。なんとバカラックとイギリスのロック・スター、エルヴィス・コステロの初共演ナンバーです。バカラックの強弱のはっきりしたメロディーに、コステロの表情豊かなヴォーカルが乗り、こりゃたまらん!なんと97年のアカデミー賞にもノミネートされてしまったらしいです。バカラックの今を知りたい人はちょっと聴いてみて下さい。

 この2人、相性いいぞと思ったら実はこのあと何曲か合作しているという噂。アルバム!出るのか!ちなみに2人が登場するプロモーションには、実在の「ブリル・ビルディング」が出て来ます。『グレイス・オヴ・マイ・ハート』と「ブリル・ビルディング」そして60年代米国音楽事情はいずれ詳しくお話ししましょう。


■ 3.セルフ・カヴァーで聴くバカラック


'Burt Bacharach Classics'
Burt Bacharach
(CD2521 A&M)
 バカラックは60年代後半から70年代にかけて、A&Mレコードに自ら編曲・指揮して録音したいわば「セルフ・カバー」(オリジナル・シンガーは別にいる)のテイクを数多く残しています。それらは彼自身の名前で何枚かのアルバムとなってリリースされましたが、これはそのベスト盤。クセがない分、ちょっとタイクツかもしれませんね。正直、あまりお薦めしません。バカラック名義のA&M盤は(国内盤で安くたっぷり出ましたが)なんか、ユルいな。


■ 4.ディオンヌで聴くバカラック



'Burt Bcharach Collection'
Dionne Warwick
(TECX-23950 Teichiku)

'Brown Suger/20smash hits'
Dionne Warwick
(LC8477 CEDER)
 はじめてバカラックを聴く人は、ディオンヌのベストから聴くのがいいのではないでしょうか。そしてお薦めは左の1枚です。

 数あるディオンヌ盤の中から、選曲、曲数、価格、デザインを考慮して選んだのがこの『バート・バカラック・コレクション』です。25曲で2300円。バカラック=デイヴィッドの曲だけを収録し、解説もまぁまぁです。「バカラック聴きたいんだけど...」という友人にはまずはこれを薦めています。日本中、どこのCD屋さんでも簡単に手に入るのも嬉しいところ。

 でも、申し訳ない、個人的には右の『Brown Suger/20smash hits』の方が気に入っているのだった。そしてこれはちょっと手に入りにくいかもしれません。購入場所は東急大井町駅構内、しかもドイツ盤。ほら、よく「CD1000円均一」とかやってるじゃないですか。休日出勤の途中で「仕事のBGMにするべ」と思って買って、会社で聴いて聴いて鳥肌立った!同じ曲ばかりなのにどこかが違う。多分、曲順と音質でしょう。曲順は地味めで、音色はちょっと籠もり気味ですが、それがとても効果的なんです。もしこれが、安定して手に入るならば、間違いなくこちらを大推薦するのですが...。



'エイプリル・フール'
c/w '小さな願い'
Dionne Warwick
(UP-129-S Teichiku)

ちょっと珍しいかもしれない
セプターの日本語ロゴ
(裏ジャケより)
 なんか「レコード・コレクターズ」みたいだな
 このページの最後に、私的想い出盤を。映画『幸せはパリで』のサントラ・シングルです。A面に「エイプリル・フール」、B面に「小さな願い」を収録。購入は...83年暮れ、高校の帰りに鎌倉に遊びに行って、古本屋の片隅にあったのを買ったんだ。価格は800円。当時としてはちょっと高いですね。
 曲はその半年くらい前に高橋幸宏がカバーしたんで知っていたんだけれど、1回だけラジオで聴いたオリジナルが素晴らしくて...見つけた時は本当に嬉しかったなぁ。大切に持って帰って、高校卒業までの数カ月、何回も何回も聴いていました(あのころはコタツに入ってミカンなどを食べながら、ドーナツ盤を繰り返し聴くという習慣があったのだ。ミカンのツユで歌詞カードを汚さないように気を付けて...)。

 今でもイントロのエレピとペットを聴くと、あのころ...音楽を聴くのに忙しくて、「勉強する暇」がないまま卒業を迎え、「さぁこれからどうしようかなぁ」と、ぼんやり考えていた頃のことを思い出します。なんとも、そういうことを思い出させる曲調なんだよ、これ(笑)。




 なんとも、知らぬ間に、溜まっていたものだ。以上、12枚はバカラックが直接タッチしたものです(ほんの一部違いますが)。次のページでは、様々なアーチストによるバカラック・カヴァー集をご紹介しましょう。ジャズ編もありますよ。





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