99/01/13
第三回
サダナリ映画大賞
1998年の個人的
ベスト・フィルム





■ 1998年のベスト・フィルム ■



順位 タイトル 制作年/国 監督 出演 カテゴリー
ラブゴーゴー 97年/台湾 陳玉勲 タン・ナ、シー・イーナン、チェン・ジンシン コメディ
ビッグ・リボウスキ 98年/アメリカ ジョエル・コーエン ジェフ・ブリッジズ、ジョン・グッドマン
スティーヴ・ブシェーミ、ジョン・タトゥーロ
コメディ
シューティング・フィッシュ 97年/イギリス ステファン・シュワルツ ダン・フッターマン、ケイト・ベッキンセイル
スチュワート・タウンゼンド、
コメディ
ドラマ
オースティン・パワーズ 97年/アメリカ ジェイ・ローチ マイク・マイヤーズ、エリザベス・ハーレー
ロバート・ワグナー、マイケル・ヨーク
おバカさん



 98年の映画館での鑑賞本数は71本。しかし半分以上が邦画の旧作だった。次が新作洋画、新作邦画は...観たっけかな(苦笑)。

 新作不振の年と言い切っていいと思う。中途半端なサスペンスや、中途半端なブリティッシュ・ムービー、やはり中途半端なアジア映画が続き、いずれも触手をそそられなかった。その間、ひたすら往年の日本映画を観まくった。ちなみに71本中24本、実に30数パーセントが昭和19年から37年までの川島雄三監督作品である(6月に"川島雄三映画祭"があったからネ)。その他、小津が8本、成瀬が5本...しまった、日本映画コーナーではないのだ(笑)。しかしこの3監督で半分以上行っちゃうんだよな...。

 しかしそんな中でも上記の作品は面白かった。特に1位の新鋭監督陳玉勲(チェン・ユーシュン)を私は強力に支持したい。但し、4位までである。次点作品については文末で説明する。ではそれぞれの作品の解説を。




 第一位 『 ラブゴーゴー 』  1997年/台湾

嗚呼、人生笑い泣き... 


 いい映画でした、気持ちよくこう言い切れます。実は最初は全く観る気がなかったんです。ティーンエイジャー向けの単なるラブ・コメだと思っていたので...。しかし、あちこちで予告編を観たり、雑誌であらすじを読んだりしている間に、強烈に観たくなり、年末の忙しい時期にまさに映画館に駆け込んで観て...良かったです。いろいろな意味で感動しました。

 『Shall We ダンス?』『シコふんじゃった』の怪優・田口浩正のような若手のおデブメガネが台湾にもいるのだな(笑)。彼、アシェン(チェン・ジンシン)は交通事故で両親を亡くし、叔母の経営するパン屋でパン職人として働いている。その店に信じられないほど美しい女性が現れる。毎日レモン・パイを買って行く彼女、リーホァ(タン・ナ)。実は彼女はおデブメガネの幼なじみなのであった。それに気づいた彼、気づかない彼女。そして彼女はどうやら家庭が複雑らしく、小学校時代に突如消えてしまっていた「謎の美少女」でもあったのだ。

 そんなリーホァにメッセージを伝えようと、アシェンはテレビの素人のど自慢に出演する。「金曜日の7時に33チャンネルを観て」という手紙を渡し、その日...。

 リーホァは修羅場の真っ只中にいた。彼女の経営する美容室に不倫相手の妻が押しかけて来て、「殺してやる」とまですごまれていた。テレビに間に合うように必死に駆けて帰ると、部屋には不倫相手からの別れの手紙があった。読み進めるうちに大粒の涙を流し始める。そんな哀しみのどん底で、テレビで「素人のど自慢」が始まる。
 不似合いな純白のタキシードに身を包んだパン職人のアシェン。司会者からも「手品師かと思ったよ」などとからかわれる。多分、目立たない彼の一生で一度、最高の檜舞台だ。
 そしていよいよ「この曲を彼女に捧げます。彼女の平穏な幸せを祈って」と言って、時代おくれの恋の歌を唄うが...これがなんと天地がひっくり返るほどの超ドヘタガチョウかアヒルの断末魔の叫びのような歌と、民謡大会のオバサンのようなマヌケな振り付け(マジメな表情で一所懸命やっているのが一層笑いを誘う)に、泣きながらも、思わず笑い出してしまうリーホァ。このシーンが最高に良かった。多分、みんな、リーホァと同じようになるよ...。



彼女に... 



彼がラブゴーゴー


 このおデブメガネ(しかも若ハゲでヅラ、オバサンアタマ)の物語を核に、彼の友人のこれまたおデブちゃん(ハンパじゃない太り方)OLの恋物語、除隊直後(台湾は徴兵制である)なのに誕生日を一人で過ごさなければならない気弱なセールスマン青年、ミュージシャンに憧れる青年の物語が挿入..いや、「絡み合いながら」約2時間が緻密に、絶妙に流れて行く。この構成力も素晴らしかった。すべての物語がどこかでくっついているのだ。

 ヤング・シネマ的に宣伝されているようだが、大人の鑑賞にも十分耐える名作。台北が舞台のヤング・シネマというと『青春神話』('92)、『愛情萬歳』('94)の蔡明亮(ツァイ・ミンリャン)を思い出す方も多いかと思うが、ヴェネチア映画祭で高い評価を受けたツァイの2作品よりも7兆倍くらい面白かった。
 プログラムも若い人向けで、あまり難しいことは書いてはなかったが、監督の陳玉勲(チェン・ユーシュン)は日本の新鋭監督、周防正行や市川準をかなり研究していると見た。物語の持って行き方は実に周防的、画面創りは極めて市川的であった。力量高し。特に反対側のビルの窓に映る歪んだ人影を生かしたり、電車の窓からの風景と窓にうっすらと映る顔を重ねたりする映像の精緻さは特筆すべきものがあった。
 種明かしのようになてしまうが、アシェンの手紙が読まれるシーンは市川作品『ノーライフ・キング』('89)、エンディングは音楽も含めて『つぐみ』('90)の影響が見られたが...。

 '94年のデビュー作『熱帯魚』(日本公開は'97年)、そして2作目のこの『ラブゴーゴー』とも自作シナリオで頑張る陳監督。映像、演出に増して私が関心したのはキャラクター設定の巧さと、物語の構成力である。「一体何者なんだろう?」と思っていた人物が、ここ一番で極めて重要な役割を果たす。更にいくつかの物語が正確に構成され、絡み合い、矛盾がない。いずれも何のことはない、「映画づくりの基本中の基本」なのだが、最近、基本が全く出来てない作家が多すぎて...。
 '62年生まれ、私とあまり変わらない世代である。大学で撮影を専攻後、テレビドラマの演出の仕事に就いていたという陳監督に私が強く共感したのは「きっちりした映画を創れる若い人が登場した」という点かもしれない。

 もしこの作品に共感されたならば、デビュー作の『熱帯魚』もお薦めしたい。初々しさの残る習作ではあるが、観るべきところは多し。あの作品も、好きだなぁ(しみじみ)...。
 しかし『熱帯魚』から『ラブゴーゴー』に於ける陳監督の成長ってのは凄いものがある。例えばちょっと弱かった導入部がとても魅力的になっているところ、音楽を使ったテンポの付け方等々、前作でちょっと気になっていた部分が一気にレベルアップ、しかも極めて高いレベルにまで到達している。そしてこの2本を両方観ると、強固なホネのある物語づくりや、テレビ画面、シルエットの使い方、無機的かつ効果的な風景の挿入など、「陳風味」のようなものが掴めるだろう。3作目に期待大。

 ともかくなによりも「笑わせる」と「泣かせる」を同時にやってしまうその力量を評価すべきだろう。恥ずかしい話だが、いまだに思い出しただけでもホロっと来る。みなさんに強力にお薦めしたい'98年最大の収穫であった。
 ニンゲン一所懸命やればやるほど、滑稽に映ってしまうのだな。思えば、私がいいと思う映画は、どれも「笑いながら、泣いてしまう」様な物語ばかりだ。「生キルコトハ恥ズカシイコトデス」は、夭折の鬼才・川島雄三監督の言葉だが、この作品を観て、本当に「恥ズカシイケレド、トニカクコウスルシカナイノダナ」と痛感した。

 うちなみに美しいリーホァはなぜか足が不自由なのだが、その意味はラスト近くに判る。これについては書かないでおこう。愛情来了!観るべし




 第二位 『 ビッグ・リボウスキ 』  1998年/アメリカ

"デュード"はいつまでも俺達の味方... 


 1位の『ラブゴーゴー』を異常なほど絶賛してしまったが、この『ビッグ・リボウスキ』だって絶賛!なのだ。同率1位と考えて頂いても構わない。
 12月の終わりに、気になる新作が溜まったので、特別鑑賞券を買って2日で4本観た。その内の一本がこの『ビッグ・リボウスキ』。あまりに面白く、かつ強烈すぎて、あとの3本がどうでも良くなってしまった。なんか、あとの作品の記憶が薄いんだよな(笑)。

 なんともいえない不思議な魅力を持った作品である。鬼才・コーエン兄弟ならではの『ファーゴ』『バートン・フィンク』的な「ワケワカンネェパワー」が炸裂しているのだが、なぜか観た後に「面白い映画を観た!」という感じが残り、ほんわかと幸せな感じもする。ヘンな映画だよ、本当に(笑)。

 時代設定がいきなり凝っている。'90年代初頭、湾岸戦争華やかな頃、ロスの外れに住むジェフ・リボウスキ(ジェフ・ブリッジズ)は定職に着かず、ボーリングに明け暮れて気ままな暮らしをしていた。彼は自ら"Dude"(デュード−ちょっとキケンでイカシた奴、みたいな意味。日本語訳困難)と名乗っていた。そしてなぜか、本名で呼ばれると怒ってしまうのだ。
 ところがそんな彼が、皮肉にもその本名のために近所に住む大富豪、ザ・ビッグ・リボウスキ氏と間違われて、富豪の妻の誘拐事件に巻き込まれる。しかしこれには二重三重の罠が仕掛けられていた。我等が(?)リボウスキはその謎を解き、虚栄と欺瞞の大富豪リボウスキの鼻を明かす、というハナシ。


全く内容の想像が
つかない
ありがたいポスター
 見どころは、あまりにもユニーク過ぎる脇役たち。まず相棒のソブチャク(ジョン・グッドマン)、彼はデュードのボーリング仲間で、事件に巻き込まれた彼を付きっ切りで世話する、が、ヴェトナム帰りで絶望的なまでにキレている彼の協力は全てが間違っており、あらゆる事象を最悪の方向へと丁寧かつ強烈に導いてくれる(笑)。もっともソブチャク自身は全くの「善意」のつもりなんだけどね(笑)。
 ボーリング仲間はあと1人、ノロマでいぢめられ役のドニー(スティーヴ・ブシェーミ)がいるが、その怪優・ブシェミがフツーに見えてしまうくらい、強烈かつアブノーマルなのが、ボーリングの宿敵・ジーザス(ジョン・タトゥーロ)だ。タトゥーロの出演作はほとんど観ているが、今回、もう、強烈(笑)。紫色のムッチムチのボーリング・ウェア(超ダサイ)に身を包み、ボールに舌なめずりをしながら投げる(但し腕はイイ)。「幼い少年に対する猥褻罪の過去アリのボーリングの天才」というワケノワカラン設定である。まぁ、ともかく、観て(笑)。
 ビッグ・リボウスキ一族にもヘンなのがいる。リボウスキの娘、モード・リボウスキ(ジュリアン・ムーア)だ。鉄カブトヘアの前衛芸術家、思わず「いたいた、こういうオンナ!」と手を叩きたくなるこまったちゃんだ。彼女とその仲間だというスキンヘッドのヴィデオ作家とやらの描き方は、薄っぺらだった'80年代カルチャー野郎へのコーエン兄弟の皮肉である。あの頃を知る者にとっては、実に痛快であった。

 ともあれ結論は「華やかな暮らしをしている様に見える連中がどうしようもない奴らで、ボサボサ頭に汚れたランニングでボーリング場に入り浸るリボウスキこそ、正常で愛すべきニンゲンであった」ということ。
 うまいわ、コーエン兄弟。ここ1、2年、ロックがかったイギリス映画などを観る機会が多かったのだが、そんな目に飛び込んで来た久々の「職人映画」。映画づくりのなんたるかを知っている人間の撮った、どっしりとした質感のある傑作であった。ヘンテコな夢のシーンなども挿入され、もうギリギリのところまで「トンで」しまうのだが、決してハズさずにスクリーンの中に観客を飛び込ませてしまうところがコーエン兄弟ならではのパワーだと思った。
 アートワークと選曲の素晴らしさにも唖然とした。ボーリング場のレトロな雰囲気を軸に統一されたロゴやネオンは、この「サダ・デラ」の目指す路線と完全に一致。ピエロ・ピッチオーニ、エスキヴァル、ユマ・スマックといったモンド・セレクション(?)から、ディラン、CCRからディーン・マーティンまでというブっ飛んだ選曲も、あ、これまた「サダ・デラ」路線だ(笑)。

 クサイ言葉でいえば、「人間讃歌」ですよ、主題は。世の中イヤなこと、イヤな奴だらけだけど、デュードみたいに平和に行こうゼ、てなところか。そんなテーマをあんなにポップに、しかもストレンジに描けるとはなぁ。昔は日本映画もそういうテーマをそういう風に描くのが得意だったんだけどね。

 デュード達がボーリングの決勝に残れることを、祈りつつ..。




さて、ちょっと長くなったので
3位以下は次のページでご紹介
まずは彼らが活躍するあの作品からです
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