99/12/20
第五回
ベストアルバム
1990-1999

Selected by Sadanari Deluxe







− YAH YAH YAHの年に、グルーヴィーなサウンドが −




BOSSA NOVA 2001
PIZZICATO FIVE
COCA10837 (TRAIAD)


■ ピチカート・サウンドの集大成 [ ROCK ]

 「ピチカート・ファイヴ論」はいつかしっかり書こうと思っていたが、ここでちょっと「小出し」にしてしまおう。人は何故、ピチカートに惹かれるか?アレンジも良いし、フレンチ風でオシャレ。しかしその最大の魅力は鼻唄で歌えてしまうような明確なメロディー・ラインにあるのではないだろうか。そしてそれは浜口庫之助や都倉俊一などの「昭和歌謡」に通じる、いや、通じるなんてものじゃない。完全に同質のものだ。

 小西・高浪両氏が持つ、そうしたソング・ライティングの妙が見事に結晶したのがこの『ボサノヴァ2001』である。セルジオ・メンデスなボサ・タッチも、フィフス・ディメンションなグルーヴも、バーバレラなモンドさも良いけれど、なにしろこのアルバムはメロディーが素晴らしい。
 ピチカートのファンというのは色々な人種がいて、「佐々木麻美子時代の初期ピチカートを善しとする」永遠の初期ピチカート・ファンという人達もいるのだが、彼らもこのアルバムに収録の「皆既日食」や「愛の神話」、前作『スウィート・ピチカート・ファイヴ』('92年)収録の「コズミック・ブルース」には納得しているのではないだろうか。しかし考えてみると全て小西ではなく、高浪の曲。高浪敬太郎の偉大さを感じる一枚でもある。残念なことであるが、高浪はこのアルバムを最後にピチカートを脱退してしまったのだ。

 翌'94年に次回作『オーヴァードーズ』発表。この『オーヴァードーズ』の12曲目「クエスティオンズ」あたりから、ちょっと違和感を感じ始めてしまった。本来なら高浪のペンによる流麗な曲が入っている場所に、小西作曲の単調なダンス・ナンバー...「もう高浪はいないんだなぁ」と痛感させられた一瞬であった。
 独りで奮闘する小西選手、'95年9月の『ロマンティーク'96』ではかなりチカラを振り絞っていたけれど(あのアルバムはかなり好きです)、以降の3枚のアルバム、特に'99年11月発表の最新作『ピチカート・ファイヴ』には「う〜ん」と唸ってしまった。

 またあの軽妙なメロディーが聴きたいなぁ、と、またしても苦言でオシマイ。失礼。




Emergency On Planet Earth
Jamiroquai
CK53825 (COLUMBIA)


■ ジャミがいれば大丈夫 [ ROCK , SOUL ]

 植木等先生の'70年代のリヴァイヴァル・シングルに「これで日本も安心だ」というのがあった。ジャミロクアイのジェイケイ青年が、いつになってもアカ抜けないサウンドで(ホメています)歌って、踊っている様をTVで観る度に、「これで世界も安心だ」という気になって来る。

 ジャミはかなりの「青田買い」だったと思う。当時買っていたイギリスのクラブ系音楽雑誌『Straight No Chaser』で知り、HMVで輸入盤を探し...シビれた。ファンク・ブラスに絡むストリングスや、ポルタメントのかかったシンセ、ツボを押さえたフルートなど、'70年代のヴィンテーヂ・サウンドの中でしか出会えなかった音を、今、現在演ってくれるなんて!最もカッコ良かったころのスティーヴィー・ワンダーと区別が付かないという妙な「弊害」もあったりして。

 冒頭で「アカ抜けない」と書いたが、ジャミの魅力はそのロックな、ベタなサウンドだ。あのネビル・ブラザーズまでが「極めて洗練された最悪のサウンド」になってしまった今日、このジャミのザラっとしたサウンドは貴重だ。なによりも嬉しいのはどんなに売れようとも−来日公演の会場がクラブ・クアトロから東京ドームになろうとも−そのサウンドに変化がないことだ。しかもしれが非常に売れてしまったりするのも、なんというか、痛快である。
 その後に出たアルバムの中では'96年の『Traveling Without Moving』が良かった。アナログLPを思わせる重低音から始まる同作品に「ジャミはどんなに売れてもジャミのまま」と安心した。あの籠もりきったサウンド・プロダクションは、かなりの自信がないと出来ないぞ。ともあれ、ジャミ(ジェイケイ)が売れている間は、ロックはとりあえず大丈夫。




Delta Kiss
Louis Philipe
PSCR-5052 (POLYSTAR)


■ 実は大ファンでした!皆さんも是非! [ ROCK ]

 今まで一回も書かなかったけれど、実は私はルイ・フィリップの大ファンなのだ。'87年のファースト・ソロ『アポイントメント・ウィズ・ヴィーナス』からアルバムは全て持っている。かつて在籍したバンド"アルカディアンズ"の再発盤も買った。名盤『アイボリー・タワー』('88年)のアナログLPなんて"激レア盤"も持っている。えっへん。

 そしてそれらを順番に聴き、ルイの変遷を知る出来事があった。'96年の3月末、会社の仕事が超多忙となり、残業につぐ残業。遂には土日も出勤となった。しかし休日出勤だからねぇ。「あるアーティストのCDを全部持って行き、順番に聴きながらワープロ作成」なんてことをやっていたのだ。そしてそんな日曜日のオフィスで、ルイを掴んだ気がした。その変遷が手に取るように判ったのだ。
 純英国風メロディーに甘いヴォーカルの乗った初期の傑作『パスポート・トゥー・ザ・ポーギー・マウンテンズ』('87)や、『アイボリー・タワー』('88年)はいかにも「elレーベル」という感じだった。ところがこの後、ちょっとダークな作風にハマるんだな。'91年の『レインフォール』や、'92年の『ジャン・ルノワール』など。メロディーも、ヴァーカルも素晴らしいけれど、曲は重くロンドンの雨雲の様に暗かった。
 そんな作風がこの『デルタ・キス』で一変。なんか、フッ切れたんだろうな。突き抜けたメロディーに明るいヴォーカル。数時間に渡り順番に聴いて行くと、なんとも長いトンネルを出たかの様な解放感があった。

 ルイ・フィリップを熱心に聴く人は残念ながら多くはないかもしれないが、強力にお薦めしたい大好きなアーティストである。ビーチ・ボーイズ・ファン、山下達郎ファンはなぜこのルイ・フィリップに注目しないのかなぁ。
 最初の一枚はこの『デルタ・キス』か、更に明るい次回作、その名も『サンシャイン』('94年)か。本当は'87年の前出『ポーギー・マウンテン』を聴いて欲しいのだが、なんか最近入手困難らしくて...。




SO SO.....
高浪 敬太郎
COCA-10357 (TRIAD)


■ ピチカート+ライダーズの名盤? [ ROCK ]

 ピチカート・ファイヴの盟友、小西康陽は大のムーンライダーズ嫌い。ライダーズも、リーダーの鈴木慶一も、ライダーズ周辺のミュージシャンもお気に召さないらしい(といっても肝心の野宮真貴がモロに元ムーンライダーズ系なのだが)。
 そして一方高浪敬太郎選手は...満を持して発表されたこのファースト・ソロ・アルバムをプレイしたとたんに驚いた人は多いだろう。「なんだこりゃ、鈴木博文のソロにそっくりだ?!」。

 鈴木博文は鈴木慶一の実弟にしてムーンライダーズのベーシスト。洗練された作詩により「ロック界の中原中也」の異名も持つ。オープニングの2曲がその博文のソロに、そっくりなのだ。しかも作詩で鈴木慶一が参加。おいおい、どうなってるの?高浪って"ライダーズ系"なの?(笑)。
 しかし、やはり、いい意味で一味違うな。博文選手及びライダーズ系の私小説的なムードに留まらず、ピチカート風のクールなアレンジもあり。乱暴に言えば「イイトコ獲り」の名盤であった。一時期、毎日聴いていたなぁ。
 本当に気に入ったので渋谷・クラブ・クアトロでのソロ・ライヴも観に行った。いやぁ、稀に見る気持ちの良いライヴだった。

 しかし高浪選手はこのソロ・アルバム以降、ソロ活動と自己のレーベル"アウト・オヴ・チューン"での活動に専念。遂にはピチカートを脱退してしまった。高浪ナンバーにホロっとした初期ピチカート・ファンは、100%高浪が詰まったこのアルバムを聴いて楽しもう。




KAMAKIRIAD
DONALD FAGEN
WPCP-5210 (REPRISE)


■ ホクホク、ポカポカ、地球にやさしいフェイゲン・サウンド [ ROCK ]

 "スティーリー・ダン"なるバンドは世の−特に日本の−知性派ロック・ファンの触手を最高に刺激する存在らしい。「どれから聴けばいいでしょうか?」というメールを何回も頂いたが、不肖サダナリ、全く知性派ではナイので「まずはフェイゲンのソロがいいんじゃないッスかねぇ」などとお気楽にお薦めしている。

 しかしこれも全くの無責任な行為ではナイ(つもりだ)。スティーリー・ダンの曲って、ミュージシャン寄りで、ちょっと地味なんだよ。特に後期は。
 演奏テクニックの研究やアレンジの勉強、レコーディング技術の探究などを目的としないならば、恋人とふたりでカーステレオで聴きたいのならば、ホクホク笑顔のこのアルバムがお薦めだ。まぁいずれはスティーリー・ダンに辿り着いて欲しいとも思うが、まずはこれが良い。当然の如く、手抜きなど皆無。スティーリー・ダンのクオリティをもって、明解でハッピーな音楽を演ったのがこの名盤である。

 地球環境を守るエコ・エンジンを搭載した未来の自動車"カマキリ号"に乗って、フェイゲン選手はアメリカを南下。しかしこの人、どこまでがマジで、どこからがシャレなんだか(笑)。南に行くに従ってサウンドもポカポカと温かくなって来るのが楽しい。6曲目「フロリダ・ルーム」のイントロが出てくると、「あぁ、もう随分南に来たなぁ」と感じさせるところはフェイゲンのアレンジの妙か、サダナリの単細胞さか(笑)。





・Jリーグスタート、サダチチ(当時54)はミサンガをし、サダハハ(同53)は加藤久ファンに
・わが社のチームも健闘、チェアマンは会社の先輩、愛社精神ひそかに芽生える
・サダナリ、ひさびさのバンド結成、ベースを抱えて小西と化す、とってもキャッチー
・サバービア・ブームにつられ、CD購入数百枚、ジャズやモンドが多かった(27〜28歳)





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