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97/08/24
ブラジル音楽にまつわるとっておきの話
Pelos olhos〜瞳に映るもの



'MAIS'
Marisa Monte
(TOCP-6827 EMI)


'Rose and charcoal'
Marisa Monte
(TOCP-8356 EMI)


'Da lata'
Fernanda Abreu
(TOCP-8829 EMI)


'TIMBALADA'
Timbalada
(PHCA-1034 Phlips)


'BRASILIANCE'
Influencia do Jazz3
(BVCP-2104 BMG)
■ちょっと気になる作品集。なにはなくともこの5枚。

 「なんだよ、男ばっかりじゃん。かわいい女の子とかいないの?」というおニイさん。いるんですよ、超美形で歌唱力も、センスも抜群なのが!

 1967年生まれの若手、Marisa Monte(マリーザ・モンチ)は近年のMPBシーン最大のスターで、その存在は革命的ですらあります(ってちょっと褒めすぎですか。すいません。大ファンなんです)。プロデュースは例のアート・リンゼイで、坂本龍一も全面的に参加した91年のアルバム'MAIS'は空前の大ヒットとなったそうです。数あるアートのプロデュース作品の中でも、一連のモンチものは秀逸。カエターノのプロデュースと同様に、MPB史の1ページとして評価されるべきものといえるでしょう。

 94年のアルバム'Rose and charcoal'も秀作。前作よりもカラフルな感じで、はじめての人はこちらの方が聴きやすいかもしれませんね。特に女性にお薦めです。
 アートに加えて、なんとカルリーニョスまで参加したことが話題になりましたが、ジャケットをよく見ると....アシスタント・プロデューサーとしてモンチ本人の名前が記してあります。単なる歌い手ではとどまらない彼女。実はイタリアに留学経験があり、本場のオペラを学んでいたそうです。底知れぬ音楽的才能を持つモンチ。果たしてこのあと、どの様な世界を魅せてくれるのか。

 しかしこういう「天は二物を与えてしまった」みたいな人が実在するのが、ブラジルという国のオソロシイところですね。次のFernanda Abreu(フェルナンダ・アブレウ)もその一人。シャロン・ストーンばりの美貌と、歌唱力、そしてグルーヴ!95年に発表され、いまだに衰えることのない人気を博しているアルバム'Da lata'(ダ・ラータ)は、オープニングから、いきなり、思わず「カッコイイ!」と唸りたくなるサウンドが飛び出して来ます。モンチベタ褒めの私も、このアルバムには参った。「クラブ・サンバ」などと形容されたこのアルバムを聴くと、'MAIS'の時代からさらに進化をとげた、変わり続けるMPBの姿を垣間見ることが出来ます。

 またこのアルバムで注目したいのは、アート・リンゼイが参加してイナイ、ということでしょうか。一応、アメリカからバンド’ソウル・ll・ソウル’のウィル・モワットが参加しているんですが、キーパーソンであるリミーニャは70年代から活動を続けるブラジルのヴェテラン・ミュージシャン兼プロデューサーだし、参加ミュージシャンもブラジル人で固められている模様です。こういう世界的にも通用する様なヒップなダンス・ミュージックがブラジル人によって創られたっていうことは大変なことなんじゃないかな。どう聴いても「これ絶対に坂本龍一!」みたいな渋いアレンジの曲も、さりげなく演っていて、MPBも遂にここまで来たかという感じがします。

 正直に言うと、私は今はモンチよりこのフェルナンダの方を高く買っているんです。そしてこの'Da lata'、世界中の人に聴いて欲しいとまで思っています。だって、それくらいのレベル見事にクリアしているもの。

  「ブラジルっつたらやっぱパーカッションとサンバじゃないの?俺はお祭り好きなんだよ」という人には、世界最強のパーカッション軍団'TIMBALADA'(チンバラーダ)をお薦めしましょう。なんとメンバー200名。チンバウ、スルドといったラテン・パーカッションにブラスとギター、ヴォーカルが加わり、それはそれはユニークなサウンドを創り出しています。
 パーカッション・グループって正直、単調になりがちなんですが、チンバラーダは違う。リズムはもちろん、メロディーやアレンジも実に「聴かせる」良く出来たものになっています。それもそのはず、実はこのチンバラーダこそ、天才プロデューサー・カルリョーニス・ブラウンのホームグラウンドなのです(今はあまり深く関わっていない模様。チンバラーダが「一人立ち」したそうです)。

 なんでもバイーアの州都サルヴァドールの下町の住人に、地元出身のカルリョーニスがパーカッションを買い与え、演奏方法なども教え込んで結成したとか。つまりメンバーはついこの間まで「そのへんのおにいちゃん、おねえちゃんとオッサン」だったわけです(ホントなのかな?この話?)。ストリートで練習を続けるうち「俺も、俺も」とメンバーが増え続け、ついに200名にまでなってしまった、とか、「さて衣装はどうしよう」となったとき「俺はステージで着る様な服なんてねえだ。裸にペンキで書いちまうだ」とメンバーの中でも長老のジイサマがのたまわったのが、有名な全員上半身裸、ボディー・ペインティングの起源、とか、エピソードも実にブラジル的。

 実はこのチンバラーダ、結構日本来てるんですよ。95、96年と2年続けて来日。96年のライブ(8月29日。渋谷・クラブ・クアトロ)は私も観ましたが、これがタイヘンだった!ステージも大騒ぎだけど、客も大騒ぎ。あんなにぎゅうぎゅう詰めで、かつ踊り、歌うライブは他に観たことがない。始まる前は超満員の場内を見て「へえ、日本人にもこんなに人気があるのか」と思っていたんですが、始まるやいなや観客の多くが曲に合わせて歌う!踊る!日本人だと思ったのはどうやら日本に滞在する日系ブラジル人(本当に若い世代、たぶん4世くらいになるのかな)だったようです。そりゃ熱狂するわな。きっと彼ら「まさか日本で観られるとは」って感じだったのでは?
 アンコールの要請も単純な拍手なんかじゃない。床を蹴って、強力なリズムで「やって欲しい曲」を歌ってしまうんだ。「これがバイーアのパワーか....」と東京にいながら、ちょっとネイティヴな世界を垣間見てしまった感じでした。来日メンバーはさすがに200名というわけには行かず20名程度ですが、それでも迫力十分!95年の来日にはカルリョーニスも同行し、日本の地を踏んでいます。

 さて最後は、ちょいシブ、MPBとJAZZの関わりを絶妙の選曲でまとめた'BRASILIANCE'シリーズの第3段、'Influencia do Jazz 3'をご紹介しましょう。60年代から70年代にかけての、ジャジー・テイストのMPBを集めたこの作品、数ある'BRASILIANCE'シリーズの中でも飛び抜けたものになっているのではないでしょうか。ジャズ研出身の友人が一聴するやいなや「だ、誰なのこれ?!」とド肝を抜かしたトロンボーンのRaulizinho(ラウル・ジ・ソーザ)や、スカパラ少女が泣いて喜ぶ、ワイルドなブラス+ソウルな女性ヴォーカルのFlora Purim(フローラ・プリム)等々、聴きどころ満載。MPBの多様性と底力を味わえる逸品です。

■さあ、いかがでしょう?

 おわったー、やっとおわったー。長らくのお付き合いありがとうございました。創刊記念特集ということもあり、カエターノに倣って出し惜しみせずにたっぷりとご紹介してきましたが、これでも巨大なMPBの世界ほんの一部に過ぎません。「ちょっとマニアックかな?」と思ったものは涙をのんで省略しました。TVやFMから流れる欧米のヒット曲を聴いてきた人たちに、違和感なく聴いてもらえる、そして気に入ってもらえるであろう作品を厳選してご紹介しましたが、いかがでしょうか、聴いてみたくなりましたか?
 レコード番号は極力国内盤のものを、ジャケット写真も出来るだけ鮮明に掲載しました。長い文章は飛ばし読みで結構です。このままプリント・アウトして、気になる一枚を探してみて下さい。ちょっと大きなCDショップに行けば、意外に簡単に見つかるはずです。これをきっかけにMPBを聴き始める人がひとりでもいれば最高ですね。そしてそして、メールで感想をお寄せいただければ、なお最高!
 ブラジル本国でも広い層に愛されているMPB、日本でも世代や性別を超え受け入れられるはずです。仕事をサボって午後のオフィスで観ている貴女も、自宅からネット探索の途中で発見したお父さんも、いざ!CDショップへ!
 
 最後にひとこと。こんなに素晴らしく、しかもわかりやすい、誰にでも愛されるであろう音楽が、広く紹介される機会を逸してしまったが為に知られていない、聴かれていないというのは世の中どこか間違ってるんじゃないのかな。本当に、まったく難しいものではありません。ストレートでカラフルでビューティフル。聴けば絶対に好きになります!
 
 もっともそうした「広くは知られざるが素晴らしきモノ」を出来るだけ多くの人に、しかも出来るだけわかりやすく紹介したい、というのはこのページ全体の創刊コンセプトそのものなんですが。



このページの参考

■書籍ほか ミュージック・マガジン 95年10月号(ミュージック・マガジン刊)

チンバラーダの来日インタヴューを堂々掲載。しかし、度々登場するミュージック・マガジン、こうして改めて並べてみると、あまり紹介されることのないブラジル音楽をラテン音楽専門誌ではないのに、丁寧に丁寧に採り上げてくれています。元はといえばロック・マニアだった私が、ブラジル音楽に病みつきになったのもこの雑誌の影響が大きかったんだなぁ。

'Brasilian Music'


Jin Nakahara
ブラジリアン・ミュージック (中原仁・編 音楽之友社 \1900 95年11月初版)

えーと、実はこの本知りませんでした。「ホームページにMPB書いてんだ」と言ったら友人が(書き終わるころになって)貸してくれました。すごいね!この本!MPBに限らず、サンバ、ボサ等々、ブラジル音楽の全てが詳細に網羅されていて、しかもデザイン、文章とも読みやすい。巻末にはリオと東京のミュージック・ガイドまで出ていて、もう、至れり尽くせりです。
編者の中原氏は、我々ロック世代にブラジル音楽を紹介してくれた恩人のような人。音楽にとどまらずサッカーから「気質」まで、ブラジルそのものを日本に定着させようと企んでいるそうです。実は結構なトシなのだがセンスとフットワークは絶妙(なんかサッカー選手評みたいだな)。これからも一層のご活躍を期待しています。ヘンな話しだが、渋い理科系の国立大学出身というのも、電線メーカー勤務のブラジル音楽ファン・サダナリにはシンパシーを呼ぶトコロである。人生いろいろだ!えい、写真も載せちゃえ!
■ホームページ TSUNEYUQUE'S HOMEPAGE http://www.bekkoame.or.jp/~caetano/

参考にしたわけじゃないんですが、たった今「日本にもMPBのページってあるのかな」と探して発見。全編MPB一色。かなり専門的なアーチストの情報もカヴァーしており、私のこのページが「ファッション誌の音楽記事」(実はそんなノリを目指しているんですが)とすれば、まさに「ブラジル音楽専門誌」といったところです。ライブでディープなMPB情報はこちらからどうぞ。




■ 次回予告■

特集「ちょっと昔の日本のロックを聴いてみませんか」

さて次回は日本・東京に帰って70年代の日本のロック・バンドを大特集
久保田真琴と夕焼け楽団、喜納昌吉とチャンプルーズ、
はっぴえんど、鈴木慶一とムーンライダース等々
90年代の今こそ聴くべきあの頃のサウンドを徹底的に解説します
ご期待下さい!

(9月23日ごろ更新予定)




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